沖縄のNPOで働いている友人がいますー。
知り合いの紹介で、今回の取材が実現した。
「沖縄」、「NPO」、これらの単語に興味が出ないわけがなかった。
聞いてみると、佐々木さんは大学を2年間休学して沖縄に住み、大学卒業後はアルバイトとしてNPO法人沖縄NGOセンター(※)に勤めだしたという。
センターの活動は多岐にわたる。
世界で起こっているさまざまな問題をテーマとした出前授業、沖縄在住外国人との共生をはかる取り組み、世界に広がる沖縄県系人(※)とのネットワークを活かした学び…など。
佐々木さんはなぜこの仕事を選んだのか。
沖縄での生活をどう感じているのか。
心の内を率直に答えてくれた彼女のインタビュー、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
(※) NPOであるが、団体の活動テーマが国際協力・国際理解教育に分類されるため、NGOにも当てはまる。
(※) 沖縄にルーツをもつ日系人。
(取材 / yuko,写真 / 本人提供)
沖縄へ移住して気づいた、理想と現実
―大学を2年間休学して沖縄へ。そのきっかけと目的を教えてください。
はじめのきっかけは、高校生の頃。軽音楽部時代に遡ります。
大阪府にある150人規模の小さいライブハウスで音楽活動をしていたんですけど、そこで出会った大人たちが、アルバイトしながら好きな音楽をやってるような人たちで。
日本各地を旅しながら音楽をして、また夢に向かって好きなことして生きていく彼らを間近で見てきたので、「自分も好きなことをしながら将来生きれたらいいな」というマインドはずっとありました。
その後大学生になって、憧れていた大人たちのように行きたいところへ自由に行きたいと思い、原付1台でとりあえず旅に出ることにしたんです。その旅でとにかく色んな人との出会いを感じましたね。
寒くて凍えそうな私にガソリンスタンドのおじさんがストーブをつけてくれたり、道の駅でおじちゃん・おばちゃんが優しい待遇をしてくれたり。それらの出会いを通して、「自分は色んな地域で色んな人と話して、色んな文化に触れることが好きなんだ」と実感しました。
原付旅を終えた後も1人で行きたいところへ遊びに行っていたんですけど、自分のなかで沖縄県がヒットして。伝統芸能も盛んだし、当たり前ですが自分が住んでた地域と違う言葉や訛りの人がいる環境に魅力を感じました。
旅行での滞在だけではもったいないから、どうせなら四季を感じてみたいと、1年半沖縄に住んだのがきっかけです。
―大学卒業後は沖縄に移住、アルバイトとしてNPOで勤務されます。移住もアルバイトも大きな決断だったと思いますが、そのときの心境はどうでしたか?
沖縄に1年半いた間に、エイサー(お盆の時期に踊られる沖縄の伝統芸能)に出会ったんですけど、私が住んでた地域でエイサーを踊れるのは25歳までだったんですよ。
私が休学していたときは23歳だったので、地元の大阪で働く道もあったけど、沖縄でエイサーをやりきってから次の道を考えようと思いました。
NPOに関しては、私が卒業した大学の学部が国際系ということもあり、海外の人と関わりたい気持ちは元々あったんです。せっかく沖縄に住むんだったら、エイサーだけじゃなくてやりたい仕事にも食らいつけたらと、今の職場に正社員として履歴書を送りました。でも、断られちゃって。
というのも、NPO業界やNGO業界って基本的に場数を踏んだ人じゃないと採用されない傾向が強いんです。それでも、「正社員としては難しいけど、アルバイトとして一緒に働きませんか?」と言われたので、ラッキーだった。まだ若いし、とりあえずバイトで頑張ろうと思って始めました。
―実際に沖縄へ移住して、感じたことはありますか?
休学中に沖縄にいたときは、期間が決まっていたからその分吸収しようと前向きなマインドで物事を楽しめたんです。
でも、社会人になって沖縄に戻ったときは見方が全然違って、最初はホームシックになりました。滞在期限がわからないことで、不安に駆られましたね。
沖縄って湿気が多くて、お気に入りの鞄とか靴はすぐカビだらけになっちゃうし、大嫌いな虫も多いし、ゴキブリもでかいし。あと、当時住んでいた地域は「女はこう、男はこう」ってちょっと古い価値観が残っている人もいて、「大学を卒業したんだし、綾菜ももうすぐ結婚するんだよね」と当たり前のことのように言われてしまうのも生きづらくて。
仕事でも、アルバイトは任される仕事が限られていて人と接しない仕事が多かったから、昔の自分の方が生き生きしてたなって比較しちゃったり。
「沖縄向いてないかも」って、帰ろうか迷った時期もありました。
だけどその時期を踏ん張ると、色んな仕事を任せてもらえるようになって。
はじめて人と接する仕事をしたとき、すごく生き生きしてたみたいで、それを見た上司から人前に立つ仕事を任せてもらえるようになって。半年間のアルバイトと1年半の契約社員を経て、正社員に切り替えてもらえました。
沖縄での生活は胸を張って好きとは言えないけど、仕事や周りの人が好きだから沖縄でやっている感じです。
NPOで働く意義と現場のリアル
―実は私もNPOという働き方に興味があって、自分で調べたことがあります。民間と比較したとき一番気になるのは、やっぱりお給料。社会貢献度は高いのにお給料が低めに設定されている点について、どう感じますか?
NPOで働く職員はある程度給料の低さをわかって入っているというか。決して高い給料ではないけれど、学びたいことややりたいこと、挑戦してみたいことに携わって働く点に価値を置いているように思います。
民間企業と違って充実した福利厚生がないことも理解したうえで、それでもやりたいと思った人がNPOで働いています。今している仕事は将来自分の強みになる経験だから、私はあまり気にならないですね。
―自分の人生に対して、ちゃんと納得したいという責任がありますよね。生きがいとかやりがいにつながる働き方をしたいというか。
どこに価値観を置くか、それも多様性かなと思っていて。
例えば、仕事がどんなにつらくても仕事以外にしたいことがある人は定時で帰れる仕事がいいだろうし、自分が何を大事にしたいのかっていうのは人それぞれ違うから。
私はたまたまそういう生き方を選びたかったんだろうなと思います。
―NPOで働くうえで感じる課題を教えてください。
NPOが抱える共通の悩みとして、資金を自分たちで調達しないといけないことがあると思います。県や国の助成金だったり、何かの事業を受託したり、「自主財源」といって寄付を募ったり、自分たちでサービスを売って収益を得たり。
NPOの仕事は“自分たちの仕事は社会にとって何になるのか”とか、“どんな未来を描きたいのか”のような「ミッションやビジョン」を設定して、そこに向かって活動していくんです。ミッションやビジョンに共感してもらえないとお金がつきにくい性質はあるので、多くのNPOは少人数で、かつ不安定な雇用で働いている人も多いです。お金を儲けることが苦手だったり、その方法がわからないNPOがすごく多いから、そういう部分が難しいと感じます。
それに、民間企業だとある程度組織ができあがっていますが、NPOはその体制づくりができていなかったり後回しにされていたり、働く上でのルールのようなものが整っていないところも多いですね。
組織基盤や資金集めも少人数で行う傾向があるので、1人当たりのマンパワーがすごく求められるし、ただ稼ぎたい人には難しいかもしれないです。
―「資金集め」というのは、具体的にどういったことをされるんでしょう?
例えば沖縄県から「日本人と外国人の共生に関する取り組みを500万円の予算で実施してください!」という公募があったときは、挑戦したい企業や団体が応募できるんです。
応募して書類審査が通ったらプレゼンをして、採用されたら契約を取り交わして、そこで初めて県との契約が成立。私たちの場合は単発~2年の契約期間でお金をもらいながら、その中で人件費などの費用をまかなっています。
私たちの団体は市や国からの受託事業が8割で、残りの2割は会員や企業からの寄付金だったり、小学校や大学への出前授業で稼いだお金で成り立っています。これらの割合はNPOによってさまざまです。
NPOって、日本では非営利団体っていうんですよ。営利を求めない団体と書くので、よくNPOは儲けちゃいけないと勘違いされます。
でも、NPOも儲けていいんです。
ただ、儲けたお金を株式会社のように、活動に賛同してくれている会員さんなどに分配してはいけない。儲けたお金を次の活動に活かして、社会に還元していくのがNPOです。
しんどいときに「助けてほしい」と言えますか
―佐々木さんの団体が公開されている動画を拝見しました。その中で「世界で起きている出来事に対して自分事であってほしい」という言葉があって、佐々木さんから見て、世界での出来事に対する日本人の受け取り方はどう映っていますか?
ちょっと話がずれるかもしれないですけど、私はふだん行政の職員や教師、外国人などいろいろな方と仕事をします。その中で共通して思うのは、しんどいときや困っているときに「助けて」と言える人が少ないこと。それは先生とか、“自分が強くないといけない”と思っている立場の人たちほど、その傾向が強い気がします。
ため込んでしまう人も見かけるし、「こうあらなきゃいけない」みたいなものが、日本人は多いのかもしれません。
人に相談したり、「これってどう思う?」って聞いてみるだけで新しい価値観を得ていくし、それが人と一緒に暮らすこと、社会で暮らすことにも繋がると思うんですけど、難しいですね。
―「こうじゃなきゃいけない」という考え方は、自分の価値観しか認めていないとも捉えることができます。世の中の出来事にも自然と無関心になっていくところはあるかもしれないですね。
たしかにそうですね。
それに関連して面白い話があって。
沖縄には120カ国以上の外国人が住んでいて、さまざまな国の文化があります。
ネパールでは道で誰かこけたら「大丈夫?」ってすぐに駆けつけるような文化があるようなんですが、日本に長く住んでいるネパール人から、それができなくなったって話を聞きました。もしかしたらそういう空気が日本にはあるのかなと思います。
―先ほどお話に挙がった、「助けてほしい」メッセージを出すことができれば、もっと住みやすくなるかもしれないですね。
はい。
例えば「外国人」って、多くの日本人が「助けてあげなきゃいけない」対象だと感じていると思うんです。実際私たちにくる問い合わせも、「外国人を支援したいんですけど」って内容が一番多くて。
でも日本在住歴の長い外国人の中には、母語に加えて日本語と英語どっちもできる人もいるし、日本人とは違う価値観でいろんなことを教えてくれる。だから彼らは社会を一緒につくっていく一員だし、必ずしも支援の対象ではないんですよね。
反対に私は英語を含め外国語が話せなくて、必要な場面ではできる人に頼みます。私が外国語を話せないことで、「綾菜英語できないから俺がやってあげるよ」って人もいるから、日本人が助けてもらう姿を見せるのもいいと思います。
人間だれしも、どう頑張ってもできないことってあると思います。でもそれはチャームポイントだと思っていて。できないことは仕方ないから、それをどう助けてもらうかという。
自分が蒔いた種にどう水をやるか。やりたいことは自分でかなえるしかない
―できないことをチャームポイントと言っちゃうあたり、面白いです。佐々木さんが外国語を話せないことによって、誰かの輝く場ができる。それは表裏一体ですよね。
さて、先ほどお話に挙がったとおり、佐々木さんのお仕事は多くの方と接します。人との調整が大変だと思いますが、何か意識していることはありますか?
私は知らない世界を知りたいという好奇心が根底にあるから、新しい知識を得るために人と話したいんだと思っています。
でも、人と関わり続けるとしんどいときもあるし、仕事はあくまで自分が豊かに生きる手段でしかないから、そこに潰されてしまっては元も子もない。だから、うんうんって聞きながら自分の中ではクローズして、真に受けすぎずに人との距離感は意識してコントロールしています。
―なるほど。いまのお仕事は、「やりたいこと」と「社会に必要であること」がマッチした、ご自身にとってベストな仕事だと思います。好きなことを続けるうえで大切なことは何でしょう?
自分がやりたいと思った仕事でも、必ずしも理想どおりとは限りません。私もはじめは「やりたい」と思って始めたけれど、最初の1年間はやりたいことができなくてきつかったから、やりたいことだけを見るのも違うのかなと思いましたね。
だから、置かれた場所で咲きなさいじゃないけど、自分が蒔いた種にどう水をやるかは自分で考えなきゃいけないと思っています。周りは絶対かなえてくれないし、自分がやりたいことに対しては自分で努力しないといけないから。
私の場合、水をやるということは「人と接すること」とか、「苦手なことにどう対処していくか」ということだったから、そういう小さなことが積み重なって、いまやりたいことができているのかもしれません。
―最後に、目標はありますか?
昔から目標とかは全くないけど、「旅するように生きていきたい」っていうのは思っています。
これから先も、色んなところに行って色んな人に会って、色んな価値観に触れたい。自分が好きだと思うことを一番にしたいし、自分を知り続けていきたい。そういう生活ができるように、周りと調和していきたいです。
自分の心のままに、好奇心に従って、一番に自分を大事に生きていきたいです。
彼女と話していて感じたことは、決して「誰かのため」という言葉が出なかったことだ。
NPOで働くのは、人一倍誰かのため・社会のために尽くしたい人ばかりだと思っていたが、彼女はあくまで自分のために、いまの選択をした。
「人のため」というのは、ある意味消極的な言葉でもある。
人生を他人にゆだねているからだ。
私たちは人生を、自分で決めているだろうか。
自分のために生きつつ、それが人の役に立つ彼女のように、
多様性が認められ、答えのないこの社会、そんな生き方ができればいい。
<プロフィール>
佐々木綾菜(ささきあやな)。大阪府高槻市出身、沖縄県在住。大学卒業後、2019年からNPO法人沖縄NGOセンターにアシスタントスタッフとしてアルバイト勤務。現在は事務局スタッフとして、主に多文化共生(国籍や民族などの異なる人々が、対等な関係を築こうとしながら共に生きていくこと)のテーマに携わる。
<団体情報>
特定非営利活動法人 沖縄NGOセンター
「私が変わって、社会が変わる。人とつながり、人をつなげる。」をミッションに、世界や地域で起きているさまざまな問題が自分とつながっていることに気づき、一人ひとりがその解決に向けて、自ら考え、行動できるようになるための機会を授業やイベントを通して提供している。
<特定非営利活動法人 沖縄NGOセンター リンク集>
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