絵描き ANZU

生き方

インタビュー/ yuko

「Live Now」とは?

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圧倒的なビジュアルに、瞳の奥に秘められた確かな熱意。

インスタグラムに「怖い絵」がずらりと並ぶのは、絵描きのANZUさん。体を貫くいくつものピアスが一見、近づきがたい雰囲気を思わせるが、礼儀正しく人懐こい。「他の娯楽がある中、わざわざ絵を描いています。」 福岡のとあるギャラリーにて彼女が放った言葉である。彼女の絵には、どんな想いが込められているのだろう。

―絵を始めたきっかけは何ですか?

物心ついたときからずっと絵を描いていましたが、小学生の頃に漫画家になりたいと思ったのが絵の道に進むきっかけになった気がします。元々、雇われる働き方は嫌だなっていうのがあって、どうせなら楽しいことをしたいなと。自分にとってその楽しいことが、絵を描くことでした。

―ANZUさんにとって絵とはなんですか?

自己表現ですね。自分の心の奥底で考えていることを表現できる、唯一の方法だと思います。極端な話、私、絵を描く以外何もできないんです。文章とかも苦手なんですけど、文章を書けなくても絵で表現すればいいか、と思っているところはあって。絵でアウトプットしないと、パンクしちゃうんですね。嫌なことがあったりすると、絵で表現しないと苦しくなるというか。私が今考えていることを、絵に描いて人に見てもらうという一連の流れが、生活の一部になっています。絵は自己表現の手段で、かつ、仕事にしている意味では生きる術でもあります。

―絵は、仕事にできるようになるまでにある程度の技術や要望をくみ取る能力が必要ですよね。

仕事にするとなると、自分の好きな絵だけを描いていてはいけないですよね。なので、本当は私は怖い絵が好きなんですけど、色々な種類の絵を描けるように練習しました。私の中では、どんな分野にも対応できるようにしているつもりです。好きなことを仕事にするのは大変なので、人の倍以上頑張らなきゃなと思います。

11000サンパチキッチン久留米店の店内壁画

―インスタグラムに投稿してあった、イタリアンのお店の絵が印象的です。

ありがとうございます。お店が閉まっているときじゃないと描けなかったので、1か月くらいかかりましたね。当時、学校もバイトも通っていたので、終電で行って閉店後の店で仕事して、始発で帰って登校する、という生活でした。一人で描いたのですが、大変でしたね。(笑)

―絵にしかない魅力とは、なんだと思いますか?

人が“作った”ものを作家さんが決めた値段で買って、家に飾る。そのプロセスがまず独特だと思います。その点では、見えるものとして飾るということが、絵にしかないものだと思います。絵を買ったことがある人と、絵を買ったことがない人って、考え方が結構違うと思うんですよね。絵にお金を払いたい人と払いたくない人の差です。どちらが良い悪いじゃないですけど、世の中全体的に、絵を買って飾ることへのハードルが高い気がします。絵は自分の中でどれくらいの価値があるのか、消費者が常に自分と向き合って考える点で、他の娯楽とは異なる気がします。あとは、見る人の状況や心情によって絵の捉え方が変わってくる点も、絵にしかない魅力かな。絵に対して思うことは人それぞれで、正解がないと思うんです。それでいいし、それが面白い。作者が絵に対して多くを語ってしまうことで、それが正解みたいになる方が私は嫌ですね。

「共感のピンク」

―見る人によって印象が変わることを利用して、絵を描いたことはありますか?

意図的に変えることはあまりないですが、どういう解釈で見てくれるんだろうと楽しみにしていることはあります。例えばこの絵(共感のピンク)は、本当は映像の断片を切り取った感じなんです。でも、絵だけを見る人からすると見えない部分があるから、いろんな解釈ができる。

―「共感のピンク」はANZUさんとしてはどのような意図があったんですか?

この絵は実際に目の前で見て、すごくトラウマになった出来事を描いています。このトラウマを抱えていることによって、私だけ毎日地獄みたいな生活なんだって思ったり、他の人には共感してもらえないだろうなと思ったりすることがあって。その時期に、ある薬に関する知識を身に着けたんです。ピンク色のお薬で、それを飲むと誰かに共感してもらったり慰めてもらったりしているような感覚になれるんです。私は飲んでいないですけど、私にとって「ピンク」というものが、嫌な記憶を消してくれたり、共感してくれたりすることの象徴になっていたんですね。なので、この絵を見ることが、私にとってのピンクになれば良いなと思って描きました。

―この作品のように、構想をしっかりと考えて描くことが多いのですか?

「猫にはなれない」

「共感のピンク」のように、アイディアをつなげたり削ったりして描くこともあるし、衝動で描くこともあります。衝動的に描いた方が、圧力がある感じになります。これらはどちらも失恋したときの絵なんですけど(左図)、上の絵は、好きだった人が猫が好きで。自分が猫になれたら、可愛がられて一生を終えるわけじゃないですか。でも自分は人間なので、嫉妬もするし恨んだりもするし、猫にはなれないっていう絵です。下の絵は、好きな人を呪い殺そうとしている絵です。自分には人は殺せないから、代わりに絵にやってもらっています。

―恋愛系の絵が多いですね。

「あの日の殺意」

正直な話、恋愛が下手で。恋人ができると、距離感がわからなくなって、自分のメンタルに響くことがあったりするんですよね。

―その中で、恨みや嫉妬などの負の感情に焦点を当てた作品が多いのはなぜですか?

私にも幸せって感情はあるんですけど(笑)、負の感情って忘れがたいしすぐ大きくなりやすいですよね。そういった強い感情の方が形にしやすくて、存在感のある絵になる。さらに言えば、悲しい・苦しいという感情の方が、共感を得やすい気がするんです。私以外の人が負の感情に追い込まれているとき、私の絵に共感できたり、私の絵が救いになったりすればいいなあと思っています。すべては自分がポリシーにしている、「忘れられない絵を描いてやりたい」ということに繋がっています。

―人を負の感情から救いたいという思いが根底にあるんですね。

はい。先ほどの絵のように、自分がしたくてもできないことを、絵が代わりにやってくれている事実があることで、救われることもあると思うんです。泣きたくて仕方がないときに、めちゃくちゃ泣いている絵がある。私がやらなくても、この子がやってくれている。嫌いな人がいるとして、その嫌いな思いや恨みを、この絵が吸い取ってくれる。恨みが溜まったときは私の絵を見てください。(笑)

―負の感情を元に絵を描いていることは、むしろそれを仲間として受け入れている感がありますね。

そう、仲間なんです。辛いことがあったときも、絵にすれば私は救われるし、絵にすることで昇華できる気がするんですよね。私のどうしようもない負の感情をもしかしたら気に入ってくれる人もいるかもしれないし、形にできた達成感もあるし、それで暗い気持ちも飛んでっちゃうし…負の感情が生まれたときの方が、私は良い絵が描ける気がしています。

―現在コアな層から支持がある中で、大衆受けするようなテイストに変える予定はありますか?

自営業など、自分の給料を自分で決めている方からアドバイスを受けることもあるんです。「売れなきゃ意味がないから、もうちょっと怖くない絵を描いた方が良いんじゃない?」と。確かに、それも一理あると思います。イタリアンの店内壁画など、誰が見ても美味しそうだなと思える絵は需要が高いし、怖い絵は一部のコアな層にしかウケませんから。でも、私は好きな絵を諦めたくないので、だからこそ色んな絵を描けるようにしたくて。自分の好きな絵だけを描いて生活できたら一番良いと思いますが、両方できるようになれば良いかなって思います。

―絵を始めてみたい人にアドバイスがあればお願いします。

好きな漫画とか画家さんの絵の模写から取り組むと、すごく勉強になると思います。模写って、お手本通りに描けているかっていう物差しがあるじゃないですか。絵に慣れていないときは、物差しがはっきりしているものを描いた方が楽しいし、続けやすいかなと。描いていく中で自分の描きたい絵も見つかってくると思います。

―絵を仕事にするには何が必要ですか?

描き続けることだと思います。仕事にするということは、それでお金をもらうということだから、それだけの絵を描けるかって、最も重要なことだと思うんです。そのためには練習が必要だと思いますが、絵にも様々なジャンルがあるので、一概に練習だけとは言えません。「ヘタウマ」、「誰が見てもわかる絵」、…どのジャンルでも、自分が思っているものを形にできる能力は身に付けた方が良いと思います。

―将来の夢はなんですか?

世界旅行を兼ねて、旅先でライブペイントをしたいですね。旅をしていてもお仕事を頂けるくらいまでの絵描きになりたいという思いも、その中に含んでいるんですけど。路上で紙と絵具だけを持って、周りに自然と人が集まってきて、それを売ったりあげたり。気に入った場所で気に入った絵を気に入った人にあげるみたいな。日本は道端で絵を描いている人が少ないと思うんですよね。売っている絵は高価で、美術館で見るものだという敷居の高いイメージが強い気がして。そのイメージが少しでも変わると良いなと思うんですけど、敷居を下げるにはイベントを行ったり似顔絵を描いたり、生活のそばに絵を無理やりにでも入れていくのが一歩なんじゃないかな。外国では道で絵を描いている光景が普通にあるので、そういうところに行って実際に勉強したいですね。

―最後に、やりたいことが見つからない人へメッセージをお願いします。

趣味を見つけようと自分探しをしている時間も、趣味の一つだと言って良いと思うんです。様々なことをするのは一見趣味には見えないかもしれないけれど、やりたいことを見つけたいと思っている時点で素晴らしいことだし、見つかることが正解だとも思いません。探しているうちに色々なことをするのが楽しいと思うかもしれないし、それで良いんじゃないかなと思います。

絵に「正解」が無いように、人の人生に対しても答えを求めないANZUさん。今の世の中、自分と合わないものに無理してついていかなくても、マイペースにやりたいことをしても良いんじゃないですか―。インタビューを通して、筆者には彼女がそう言っているように聞こえた。どんな時代でも、世間にウケなくても、自分がやりたい、好きだと感じたことをやる。この言葉が響くのは、誰だろう。もはやアーティストだけに当てはまる時代ではないだろう。

<プロフィール>

ANZU                                                    福岡県久留米市出身の絵描き。福岡を中心に、ライブペイントや壁画制作などのアーティスト活動を行なっており、オリジナルグッズの制作・販売も手掛ける。ペインター兼モデルとして活躍するdollyの声かけでアーティストグループ「Beasty」に参加、博多マルイにてグッズ販売やライブペイントを開催するなど、グループの一メンバーとしても活動中。そのほか福岡モーターショーでのペイント出演や、ストリートショップCRACK HOUSE fukuokaでのライブペイントなど、ペインターとしても多数のイベントに出演している。

Instagram:https://www.instagram.com/zutsu8989/

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