【カフェ×夫婦経営】道の喫茶もり辺 飯田虎男さん、敬子さんご夫妻から学ぶこと

インタビュー

朝倉ICを降り、国道を南に向かって走ると、福岡県民ならば知っているであろうフルーツ王国地区に着く。

柿農園をいくつも横目で追い越しながら更に車を走らせると、「ネルドリップコーヒー」の文字が見えてくる。

夫婦で営む喫茶店「道の喫茶もり辺」では、地元の食材をふんだんに使ったケーキセットやジェラートを販売しており、店内にある大きな窓からは、どこか遠い場所に来たかのような、自然豊かな景色が見える。

そのためか、この喫茶店を包む時間は客に合わせるように流れてゆく。

店主のお一人である飯田虎男さんは、「第二の人生で始めた店だから、ご期待に添えるお話ができるかどうか…」と仰っていたが、だからこそ聞いてみたい話があった。

敬子さんお手製のレモンケーキを頂きながら、その人生を伺ってきた。

(取材・撮影/yuko)

広々としたこだわりの店内

―喫茶店をされる前はどのような人生を送って来られたのですか。

大学を出て37年間、中学校の教員をしていました。

教育というジャンルしか知らなかったから、定年後は全く違うジャンルに行ってみたくて。女房が喫茶店をしたいと言い出して、私もやることが無かったので、それなら一緒にやろうと。

―奥様の夢を叶えようということですね。喫茶店の魅力は何だと思いますか?

一番はいろんな人と話せることですね。お店をしていなければまずお会いすることがない人ともお話できる。ちょっとの間ですけどね。自分たちのコンセプトを見ていただいて、それに合ったり、それを良いと思う方に来ていただける。

―コンセプトとは?

ひとつはこの建物の感じ。古民家風に作ったんです。あとはこの景色。この景色をゆっくり見ながら、大げさですけれども、癒しの空間としてコーヒーなどを飲食してもらいたいです。

シニア層の人たちを主なお客様として想定していたのですが、図らずも小さな子供さんやそのご家族たちも多いです。

―地元の食材を大切にされているのはなぜですか?

何をするにも地元中心です。せっかくそのエリアに住んでいるから、お互いに応援し合いたい

ここに住んでいるのに、わざわざ東京の業者に頼んで儲けさせる必要はないです。地元の方に利益を出したい。そうすることによってここのあたりの経済も盛り上がっていく。定年後だからそこまでの余裕が出るんですけどね。

ずらりと並ぶのは地元の情報誌。地元中心スタイルが伺える。

―建築にもこだわりが?

木と土だけでこの家はできています。木と木を組み合わせて作ってあるから、ほとんど釘も使ってないんです。

壁は、竹を編んでその上から土を塗ってある土壁です。夏も冬もこの壁だけで大丈夫。外が氷点下になっても、この部屋は10度とかです。下がらないし湿気もつかない。窓も二重窓。これは私のこだわりですね。

―喫茶店を開くにはどのような人が向いていると思いますか。

柔らかく人に接することができる人だと思います。物腰が柔らかというか。女性は割とそういうことが得意な方が多いけど、男性で愛想の良くない感じを出していたら嫌でしょう。演技でもにこやかにできる人ですね。(笑)

そして、頭を下げることができる人。それが一番じゃないですか。それができたらできると思いますよ。

―元々人がお好きだったんですか。

私はひとりの方が好きです(笑)。朝や仕事の終わった後は大概一人でいます。人と話すのはそんなに得意じゃないけど、それでも喫茶店はできる。気楽にできるからですね。

現役時代は生活がかかっているから自分のやりたいことをやれなかったけど、今は、「今日はちょっとやめようかな、休もうかな」とか無理をせず自由がきくからそれが良い。会社員やったら多少無理をしなきゃいけないときもあるけど、それがない。

―教師をしていた経験が役に立っていることはありますか。

人を見て、この人はどういうタイプでどういうのが好みで、とかが案外読み取れる気がします。

仕事をしていた時は、子供を見て、この子はどんな状況かな、とか読みとっていたから。当たっているかはわからないけれど、だったらこういうことしてあげようとか、ちょっとサービスしてあげよう、とか。そういうのはあるかな。

お客さんが多いときはなかなかできないけど、色々な器の中から、気に入りそうなものや、その人に合ったカップをお出ししたいと思いますね。

店に並ぶ器の数々。

―HPで拝見しましたが、ボールペン画や浮世絵などを展示されていますね。芸術に興味があるのですか。

非常にあります。私は芸術的な才能は全然ないのですが、見るのは好きですね。

美人画や平成の職人が江戸時代と同じ手法で作った浮世絵が好きで、江戸時代と今の価値観の違いを勝手に感じ取るのが楽しいですね。若い人たちがもし展示したいものがあれば、多少費用を頂きますが、私はいつでも店に展示しますよ。

―ここからはパートナーと歩まれている点について伺います。夫婦でお店を開くことは大変では?

一人より二人でした方が良い。1+1は2じゃなくて3にも4にもなります。接客もする料理も作るコーヒーも作る。私一人ではできないし、逆に女房一人でもできない。一人じゃなくて何人かでやった方が何倍もの力になる。基本はそれ。

―パートナーとうまくやっていくコツは何だと思いますか?

性格の違い。私はこまやか、女房はどちらかというと大雑把で適当。その違いやバランスの良さが大きくて、一緒だったらうまくいかない。

価値観や性格は同じが良いというけれど、パートナーを選ぶときは自分と違う人を選んだ方が、私は良いと思います。

―人との違いを受け入れるというのは難しいですよね。

そこさえできれば!現実を認識するだけです。それができるかできないかですよ。

自分の理想ばっかりじゃできない。お互いそれができているのが一番。自分の思う通りに人生がいくわけないじゃないですか。現実を認識して状況をうまく処理できるかどうかだと思います。それに気づくのが大変ですけどね、若いうちは。(笑)

―自分のこだわりを相手に押し付けちゃったり…。(笑)

押し付けちゃダメですね、苦しんじゃいます(笑)。

夫婦だけじゃなくて仕事仲間でもそう。違う人は違うんだから。自分の子供でも違うのに、他人は違って当たり前。人と同じやったら人生面白くないですよ。相手の違いを受け止めて、自分のペースで生きていくと。自分とは違うんだけど、でも生活はしてるんだから、その中で自分の道を進むしかない。相手を認めて自分のしたいことをする。

―意見が異なったときはどうしていますか?

やらない。うちは合議制だから、器一つとっても、二人が「良い」と言ったら買う。どちらかが「良い」と言っても買わない。うちはそうしています。男性女性関係ないですよ。五分五分。家庭って一番現実ですよ。

―今の世の中、分断が進んでいたり、差別があったり。その考え方は大切だと思います。

自分の価値観を押し付けようとしたら絶対上手くいかない。相手も同じ。あなたとははっきり違うねと認識したうえで、自分のペースで生活する。お互い批判もしないし、意見が割れたらしない。意見が割れると言っても、私が良いかな、と思ったらしたりしますけどね。40年弱一緒にいると、阿吽の呼吸みたいになるんです。

―昔の自分に向けて何か一言言えるとしたら、何を伝えたいですか。

「やりたいと思ったことはやれ」と言います。

私、「こげん細かく考えんで良いやろ」ってくらい、細かく考えるんです。でも考えたら動けない、何もできない。これをしたらこうなる、こうなる、とずっと考えて動けなくなる。だから、大きなお金がかかるなら別だけど、ちょっと小遣いプラスアルファくらいでできるものならやった方が良い。で、うまくいかなかったら辞めたら良い。それが一番かな。やってみればいいやんって。

―ご自身は過去にやりたいことはやって来られたんですか?

私はやってなかったから尚更思うんですよ。私は40、50歳前後からやりたいことを少しずつやってきました。それまでは失敗したらどうなるかを考えすぎてやらなかったですね。石橋を叩いてでも渡らなかった。

だから、何でもやってみればいいんですよ。20代の私に言いたいことはそれですね。

―昔やりかったことをしていたとしたら、今は何をされていると思いますか。

貿易をやっているでしょうね。私は大学の頃、貿易学を習ったんです。バーター貿易っていうんですけど、輸入をやってみようと思ったんです。でも、結果的にできなかった。それでこの年になって、またやりたいと思うようになって、やってみました。タイ雑貨を輸入してみたんです。そしたら、できた。できたけど、ただ、売りさばくことができなかった。貿易は面白かったですね。

貿易をやってみて思ったことは、変換手数料や郵送料で値段が高くなる。だから品物の値段より手数料の方が高かった(笑)そういうからくりを知りました。

―今後される予定は?

売れたらやります。あの7,500円の(タイの雑貨)なんて誰も買わないでしょう(笑)。そんなことを思いながら値段付けてました。輸入はこんなもんだなあと思いましたね。

―いまはコロナ等で大変な世界だと思いますが、どのように希望を見出していきたいと思いますか?

今は何でも動きを我慢せないかん時期でしょう。でもじっとしてたらどうかなりますよ。だから少しでもやれることをやる。お金かけたら後悔するから、安価にできることをしたら良いですよ。

例えば私は、庭に防草シートを敷いて、個人用のグランピングスペースを造ろうと思ってるんです。ああいうのはマンションでもできると思いますよ。それから、外に石を置いてみました。ちょっと見てみます?

―石のオブジェを鑑賞―

飯田さん制作のオブジェ。玄関先に設置してある。

それから、絵を描いてみても良いかもしれませんね。案外才能があるかもしれませんよ。私の知人も、40歳後半からYouTubeで絵を勉強して、4~5年ですごいクオリティです。

―今後挑戦したいことはありますか。

大きなギャラリーを作ってみたいですね。できれば若い人たちの作品を飾って、一人二人有名にしたいです。支援したいという気持ちがあるので、展示をして、大きくなっていってもらいたいですね。

―育てたいという気持ちがある?

私にどれだけできるかわかりませんけど、残りの人生を懸けてやってみたい。育てることが面白いと思いますね。興味津々です。

今の時代は厳しくて、私たちの若い頃のように経済が豊かだった時代と比べると、年収が下がっているんです。だから今の時代に育っている若者はハングリー精神があると思っていて、それを生かして、大成功する人が出てくるんじゃないかと。

私のギャラリーに展示する若い人たちの中から出たら良いなと思って、そういう場所を提供できたらなと思います。それを考えるだけで楽しいですね。

―若者にはハングリー精神を生かして頑張ってほしいということですね。

新しいものを作り出してほしいと思いますよ。あなたがやっている活動も、こういうのをやっている人で有名な人はまだそんなにいないから、ねらい目だと思いますよ。(笑)

飯田さんの言葉の髄所に見られたのは、「私の意見」と「あなたの意見」をはっきり区別する話し方だった。

自分の考えやいわゆる“答え”を押し付けず、人にもきちんと考えてもらう。

教師という職種を全うした第一の人生で培われたのは、その人の感覚や感性を尊重する姿勢かもしれない。

帰り際、地元のお店をたくさん紹介してもらい、冒頭で仰っていた相互支援の様子を垣間見た。

そして人は、応援してくれる人の期待には応えたくなるものだ。

「あなたもせっかくこういうことをしているのだから、頑張って有名になってくださいよ」と笑いながら、飯田さんはLive Nowサイトを「☆お気に入り」に追加してくれた。

してやられたと思いながらも、嬉しかった。

道の喫茶もり辺は、今日もゆったりとした空間の中、バランスの良い二人の創り出すおもてなしがなされている。

<プロフィール>

道の喫茶もりべ経営 飯田虎男(いいだとらお)

私立中高等学校7年、 福岡市立中学校にて30年教諭及び管理職として勤務。

定年後、平成26年より、久留米市田主丸町にて、夫婦で喫茶店「道の喫茶もり辺」を開業し、現在に至る。

<店舗情報>

道の喫茶もり辺

営業時間 11:00~17:00

定休日  毎週水曜日、木曜日

 〒839-1211

久留米市田主丸町森部1203-7

℡ 0943-72-0624 

<道の喫茶もり辺 リンク集>

道の喫茶 もり辺
道の喫茶もり辺は、耳納連山の麓、自然が豊かな”山苞の道”という一本道に佇む喫茶店です。

<飯田さん応援の地元のお店紹介>

手作りこんにゃく みのう屋様

手作りこんにゃく みのう屋
手作りこんにゃく店/蒟蒻専門店みのう屋のこんにゃくは 藁灰から抽出した灰汁で作る刺身こんにゃくなので とっても柔らか、もちもち食感で臭みも少ないので お刺身はもちろん、わらび餅のようにデザートとしても美味しく食べられます! その上さらに低カロリー! ぜひお試しください!

ちいさなちいさなマルシェ

ちいさな ちいさな マルシェ

タイトルとURLをコピーしました